『バーチャル秘書』

作 市田ゆたか様



Phase.02


ジリリリリ…
目覚ましの音が藍子の部屋に響き渡った。
「ピッ…外部刺激、音響レベル4。プログラムAIKOを起動します。…うーん、うるさいわね」
藍子はベッドから抜け出して寝ぼけまなこでベルを止めると、再びベッドにもぐりこんだ。
「ピッ…プログラムAIKOをスリープモードにします」

「ピッ…始業時刻30分前。プログラムAIKOを起動します。…あー、よく寝たわ。そういえば目覚ましは…」
藍子は9時30分を示している目覚まし時計をみて驚いた。
「えっ、もうこんな時間。急がないと遅刻しちゃうっ」
あわててスーツに着替えて、化粧をするまもなく部屋から飛び出したところで藍子は気がついた。
「そうだったわ。寮は研究所のすぐそばだったんだわ。こんなに急ぐことなんてなかったじゃない」
藍子は部屋に戻って化粧をしなおすと、改めて研究所に向かった。

「おはようございます田原さん」
「おはよう。昨日はよく眠れましたか」
「はい、でも目覚ましが鳴ったのを勝手に止めちゃったみたいで、研究所が隣じゃなかったら遅刻していたところです」
「ああ、大丈夫ですよ。ちゃんと起きられるようにタイマーがセットしてありますから、これからは目覚ましはいりませんよ」
「えっ、そうだったんですか。てっきり寝坊したかと心配してしまったんですけど」

「それでは、昨日の続きをはじめましょう。これを額のポートにつけてください」
田原は何本ものケーブルがついたコネクタを手渡した。
「あ、はい」
藍子はコネクタを受け取ると、両手で持ち上げて額に当てた。
「い、痛っ。コネクタがつかないんですけど」
「すみません、言い忘れていました。まずポートをオープンしないと…。今から外部操作でポートをオープンしますから、その感覚を覚えて下さい」
-- カシャッ!
藍子の額のシャッターが開き、接続端子が現れた。
「次は閉じますよ」
-- カシャッ!
シャッターが閉じ、周囲の皮膚と見分けがつかなくなった。
「それではやってみてください」
「えっと、こう…ですか」
-- ガガガガ…
「きゃっ」
シャッターは小刻みに震えたが、開かなかった。
「もういちど外部からコントロールします。よく覚えてください」
-- カシャッ!
-- カシャッ!
-- カシャッ!
-- カシャッ!
「それではやってみてください」
「えっと、こうして…こうして…、うーん…」
藍子はシャッターを開けようと集中した。
-- ガガガ…カシャッ!
「開きました」
「よく頑張りましたね。それでは閉じてみてください」
「はい」
-- カシャッ!
「いい感じですね。開いて」
「はい」
-- カシャッ!
「閉じて」
「はい」
-- カシャッ!
「もういちど開いて」
「はい」
-- カシャッ!
「覚えましたか」
「はい。人間の身体にはない部品だから難しかったですけど、もうだいじょうぶです」
藍子はそういって、コネクタを額の端子に差し込むと、動きを止めて無表情になった。
「外部インターフェイス接続確認。プログラムAIKOは、バーチャル秘書システムのサブシステムとして稼動します」
藍子は単調に言うと、表情がもどった。
「これでいいですか」
「ええ大丈夫です。あなたの状態はちゃんとここでモニターできています」
田原はそういって端末を示した。



「それでは、昨日は途中でしたからもう一度服を脱いでください」
「えっ、それは…」
「やはり、恥ずかしいですか」
「当然です。いくら何でもこんなことは」
「困りましたね。そうしてくれないと、これから先が進まないんですが…そうだ。こうしましょう」
田原はそういってコンソールを操作した。
「恥ずかしいと感じると、プログラムのこの部分が活性化しているようですね。ここをバイパスさせましょう…プロジェクトのために脱ぐ場合には、このルーチンをキャンセルして…」
「な、何をするつもり…ピッ、プログラムAIKOを修正中…………修正完了…ピッ」
「どうですか、まだ服を脱ぐことははずかしいですか」
「当然でしょ」
「それでは、プロジェクトのために服を脱ぐことは?」
「恥ずかしい…わけないじゃないの。仕事なんだから。…えっ?今まではあんなに恥ずかしかったのに…」
「それでは服をすべて脱いでください」
「はい」
藍子はスーツの上着から順番に服を脱ぎ、ブラジャーとパンティだけになった。
「これでいいですか」
「まだです。すべて脱いでください」
「ぜ…全部ですか」
「そうです。プロジェクトのためです」
「はい、脱ぎます」
藍子はブラジャーを外し、パンティを脱いだ。
「気分はどうですか」
「どうって言われても、裸になって気分のいい人なんて…」
藍子は返事に困った。
「それでは嫌ですか」
「仕事のためだから嫌じゃありません。もし仕事じゃなかったら、田原さんを思いっきり殴って変態として警察に突き出してると思います」
「それでは、これをつけてください」
田原は大小2本のパイプが内側についた金属性のブルマーのようなものを渡した。
「これは?」
「仮想空間にいる間は排泄のコントロールができません。これはその間の尿や便を自動的に処理する装置です。その細いパイプを尿道に、太いパイプを肛門につけてください」
「えっ、そんな…」

「脳が電子化されているからといって、貴方の肉体は人間のままです。食事は流動食で補う必要がありますし、排泄も必要です。漏らしてもよいというのならオムツもありますが…」
「そんな…なんとかならないんですか」
「身体まで全部機械になれば排泄の必要もなくなりますが、そんなことをしたら二度と元に戻れませんよ」
「わ、わかりました。つけます」
藍子は金属のブルマーに足を通すと、肛門と尿道にゆっくりとパイプを差し込んだ。
「あ、あんっ…」
藍子は敏感に反応しながらもゆっくりとブルマーをはき終えた。
「終わりましたか」
「は、はい…」
藍子は冷や汗を流しながら言った。
「では排泄物がきちんと処理できるようにセッティングをします。赤いボタンをおしてください」
「これ、ですか」
藍子はゆっくりとボタンに触れた
ブーンという音がして、金属製のブルマーは藍子の腰を締めつけ、奇妙な振動が肛門と尿道に伝わった。
「あ、あんっ。いやっ、何っ?。やめっ…やめて…」
額のコネクタの横にあるランプが激しく点滅し、コンソールに多数の赤い文字が表示された。
やがて音は小さくなり、振動は止まった。
「は、はあっ、はあっ、お…終わったんですか」
「ええ、終わりましたよ」
金属製のブルマーは、一回り縮んで藍子の肌に張り付いていた。藍子はブルマーと肌の間に指を入れようとしたが、それはまるで元から藍子の肌の一部だったようにスムーズで、指を入れる隙間すらは存在しなかった。ブルマーの前面にはパイロットランプが緑色に点滅していた。
「いやっ、何っ、脱げないの」
「落ち着いてください。もう一度赤いボタンを押せば取り外せます」
「本当に?」
「もちろんです。今から処理装置の説明をしますから、よく理解してください」
「は、はい」
藍子は不安そうに言った。
「まず前面にボタンが3個あります。赤いボタンは着脱用のボタンです。緑のボタンは通常の用足しをするときに使います。押してみてください」
藍子は青いボタンを恐る恐る押した。
-- カシャッ!
股の間に大小二つの穴が開いた。
「普通にトイレに行くときはこれを使ってください。もう一度押すと閉じます」
藍子はボタンを押した。
-- カシャッ!

「黄色のボタンは、仮想空間に接続するときに使います。後ろにバキュームホースを接続するための口が開きます。これはあとで説明しましょう。

Phase.02/終


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